「平気、ですか。景時」
京に火が放たれて数刻、火の広がりは思いのほか早く回ってしまい。そこに現れた火事場泥棒、怨霊は数知れない。

京を守らなければ。

と思い邸を出たはいいが、あまりに酷い惨状を眼にすると。
ふと出た希望も泡のように消えてしまう。

自分は何も出来ない。

「平気だよ〜でも、皆を逃がしてあげなきゃね。」
「そうですね。」

今、自分たちに可能なのは、怨霊をなぎ倒して町の人々の通る道を作ることだけ。
そう、京は今いたるところ緋。

――ピシッッ
「・・・・」
いくつ目かも判らない怨霊をなぎ倒したその時、一筋の罅が薙刀に入る。
それはまるで不幸の象徴のよう。

「何か、悪いことがおきないと良いんですが・・・・・」
「ん?」
「何でもありません。行きましょう、景時。」
もう、京がこのような状態だと言うこと、それだけでもう既に良くないこと・・でしょうね。



「大丈夫ですか?」

「・・・だ、だいじょ〜ぶだよ〜」

そう軽く返答する景時の顔には血の気がなく、背中には幾つかの矢が刺さっていた。
無数の切り傷、治療する手間さえ惜しい。
そのうちの一つは明らかに致命傷。

勿論の事
僕も無傷ではない。
しかし傷の痛みは無く。生きているのか死んでいるのかもわからない。

・・・・・・・・九郎達が無事だといいんですが・・

「・・・どうした?それまでか・・源氏の軍師殿・・・・」
目の前には平家の武将、

「景時・・・そろそろ、望美さんたちも戻ってくるのではないでしょうか?」
その言葉に対した意味は無い。軽口みたいなものだ。

「そうすれば・・・百人力だね〜・・。」
やわらかく景時が笑う。
立ち上がれない程に弱って、このまま生にしがみ付くのは武士としては恥のはず。
それでも景時は立ち上がって・・・・・人を生かす。


そんな景時に背を向け、僕はその平家の武将を見据える。
罅の入った薙刀で、

焼け焦げた黒衣を捨てて・・・・

「時間稼ぎにぐらいはなりそうですね・・。」

「名は?」

「ご存知の通り・・武蔵坊弁慶です。」
「・・・・・・・平知盛。」

「そうですか、」

何故だか笑みが毀れる。
何故なのだろうか・・・・・此れから死ぬこの運命なのに・・。







「――――っ・・・」

「どうした?望美。」
びりっとした傷みが奔る。手の甲と、鎖骨あたり・・・・・
それと共に胸に浮かぶのは・・嫌な予感。
大切なものが無くなってしまった様な、そんな感じ。
心にぽっかりと穴が開く。

「早く・・・・・・・・早く、行こう・・・早く、京に」

焦る気持ち。
嫌だ・・・・・最悪のことを考えてしまう自分。

「皆・・・・・・無事、だよね・・」


この僕が崩してしまった京を少しでも守れる力に成れたならならば・・・・・

例え、血の海に沈もうとも。

「・・・さよう・・なら」

カラン、軽い音を立て
罅入った薙刀が地に墜ちる。

背景には、血の海。





後書
いつかやってみたかった。
真っ白の弁
うはは・・・
雰囲気として一周目。
Lalaであかねちゃんと八葉には絆があると聞いて
その絆を利用した感じです。
大切な八葉だからこそ、消えたらある程度の痛みは走るんじゃないかな〜って思って・・。

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