たなごころ

「っっ・・まただ。」

ピリッと軽い音を立て、皮膚は破れて赤い血が出てくる。
手は乾燥した風のせいでカサカサになってしまっていて、ほんと、少しの衝撃で切れる。

痛い。

「――あっちの世界とは、違うんだ。」

カラン・・
ずっと握っていたあたたかさの残る太刀を地面に落とし、私はにび色の空に掌をかざす。

まめだらけで、あかぎれ、いたるところには切り傷。
つめは短く切ってある、それだけ。

あっちの世界での私の掌、
綺麗に爪を切って、ネイルとかもぬったりして・・
少し手が荒れただけで大騒ぎして、ハンドクリームでべたべた。

「懐かしいな・・」

皆を助けようともがいていたら、いつの間にかとてつもないときが流れてしまったように思えて、あの頃が遠い昔のように思い出されてきた。

今、時は良い方向に向かっている。
誰もまだ、死んでいない。私の前から消えていない。



けれど、あの人だけは、何度やり直しても死んでしまう。
救うことが出来ない。
また、死んでしまった。居なくなってしまった。
彼を助けようと、時空を跳ぶなら今。この、私の周りに誰も人がいないときがいい。・・・・・・でもこの時空の皆を助けたい。

私はわがままで、とてつもなく欲張りだ。
手に入れられそうなものはすべて、奪うにして手に入れたい。
太刀を握って、人の命と引き換えに仲間の命を手に入れる。

もう、私の掌はぼろぼろだから、代わりにこの太刀で、血で、
大切な人の命を手に入れる。

虚空(そら)にすかした掌の先に――私は見た。
否、見ることを願ってしまった。

あの人の姿が、血まみれのあの姿が。

そして、その血に映える蒼の海が。

「っっ・・・・・」

なんで、なんて私は自分に気がつくのが遅いんだろう。
何度も、私はあの人の夢を見る。

其れは白昼夢に似たものかもしれない。

「・・・・・そうか、だから・・私は」

独り言つ、
私はようやく自分に気がついた。
それに気がつかない鈍感にも――

でも、気がついたら動くしかない。





光が瞬く、
私は時空(ソラ)を跳ぶ。
掌には、逆鱗と――太刀。

END

後書
気がつく方は気がつきますよね・・・?
あの人=知盛です。
コレはまさに妄想の暴走の次元。
家庭科かなんかの授業中に☆
お題一個目消化です。

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